格差社会からの脱却

早稲田大学社会科学部
上沼ゼミ2年
稲村遼



研究動機

 明るい日本の未来を想像し、またその必要条件を考えたときに「格差社会」という問題がネックになっていると私は感じる。今現在でも広がり続けているこの格差社会問題を生んだ要因と解決方法を学び、政策提言できるように研究していきたい。

章立て



第1章 格差社会の概要

 格差社会とは富裕層と貧困層に二極化された社会のことを言い、主に経済面での格差を指すことが多い。しかし、現在では経済格差や所得格差だけではなく、情報格差や教育格差、地域格差なども含む問題となっている。かつては総中流社会と呼ばれていた日本だが、80年代後半のバブル期において資産インフレが原因となり格差社会に突入した。政府の新自由主義的政策によって拡大を続けたこの格差社会が孕む諸問題は、所得、消費、賃金等の統計データからは明確な論拠を見出しづらいこともあり、マスコミなどでは大体的に取り上げられないものとなってしまっているのが現状である。


第2章 経済格差

 OECDが発表したデータによると日本は今現在先進国の中で貧困率において第5位に位置している。その貧困率は15.3%にも及び、日本はアメリカに次ぐ世界第2位の格差社会の先進国なのである。大企業の経常所得と家計所得は広がり続けており、大企業が低所得者から搾取しているという構図は変わらない。「金持ちはより金持ちに、貧乏人はより貧乏人に」なってしまうこの現状を打破するために多角的な視点で政策を練る必要がある。

OECDが発表した24ヵ国の貧困率レポート

(出典:OECD ワーキングレポート22)



第3章 教育格差

 教育格差とは、親の収入などによる格差が子どもの教育環境にも反映される問題であり、生まれ育った環境により、受けることのできる教育に生じてしまう格差のことである。教育格差が悪化していくと生まれた瞬間からその人の人生が限定されてしまう可能性さえある。特に低所得・貧困層にとっては厳しく、進学したいと考えていても進学が出来ないケースがある。「大学全入時代」とも呼ばれる日本の状態では、仮に能力を持っている人でも、ただ大学に行っていないという理由だけで就職がかなり厳しくなる状態に陥ってしまう。  教育格差は主に4つの種類に分けられる。1つは「学校間格差」、2つ目は「地域間格差の教育への反映」、3つ目は「体力格差」、4つ目に「教師格差」である。 さらに教育格差には経済格差と同様に「階層の固定化」という問題が潜在している。つまり、「階層」差を文化的な「階級」差へと読み替える視線が存在してしまっている現状があるのだ。これらの現状や背景について考えると同時に、教育の分野で世界的に成功を納めているフィンランドの教育制度について触れることで、日本の教育における問題点を考察する。


(出典:ベネッセ教育開発センターHP)


第4章 格差社会の犠牲者

   日本での自殺者の数は20世紀の間は2万人程度に抑えられていたが、「格差社会」が叫ばれる21世紀になると急激に増加し、その数は1年で3万人を超えるようになった。これは「リストラ等で失業した人々が生きる希望を持てなくなってしまった」という状況が大いに見受けられる。格差社会と化した日本には、一度ドロップアウトした人間を救済する制度が少なく整備されていないために、人生に絶望してしまう人が後を絶たない。格差が固定してしまうと「負け組」は希望を失い続け、「勝ち組」は安泰であり続ける。今現在日本はこのような社会の犠牲者たちを見て見ぬふりはできない段階にまで達している。こうした現状を打破すべく、犠牲者の現状を明確に把握し、格差是正・自殺防止等の政府の対応のあり方についても言及していきたい。


第5章 今後の研究方針

  現在の日本は「努力が報われる社会」である以前に「努力する環境に格差が生じている(親の収入・教育水準・教育に対する家庭環境、子供のやる気等)社会」であるということができる。この「環境」について多角的に考察し、さらに「貧困が存在する事」自体を問題視することで具体的な政策を科学していきたい。




参考文献

  • リチャード.G.ウィルキンソン(2009)『格差社会の衝撃―不健康な格差社会を健康にする法』(書籍工房早山)
  • 山田 昌弘(2006)『新平等社会―「希望格差」を超えて』(文春文庫)
    Last Update:2012/2/2
    © 2013 Ryo Inamura. Allrights reserved.