その中で事件に全く関係のない人物が加害者の親族であるとしてネット上で氏名や顔写真を公開され実際に誹謗中傷などの被害をうけ、それらを書き込んだ人物が書類送検されるなどの事態に至った。
多くの人々がその虚偽の情報を安易に信じ込み、全く無関係の人物に精神的苦痛を与え、虚偽であると判明しても「ああそうなんだ」程度で済ましてしまうその状況を同じくネットで見ていた私は危機感を覚えた。インターネットが普及した現在、私たち市民はいとも簡単に報道被害の加害者になることができるのであり、そのような時代であるからこそ、この問題をメディアの問題としてだけではなく、"我々の"問題として真剣に考えていく必要があると思い、研究テーマとした。
報道被害の原因としては、
さらに近年では「インターネット」がこのような被害を増幅させている。検索エンジンで誰でも容易に検索でき、たとえそれが誤報であっても訂正されないままいつまでも残るその仕組みは一般市民をいとも簡単に報道被害の「加害者」にしてしまうのであり、報道被害はメディアと被報道者間だけの問題ではなくなってきている。
→無実の人物をあたかも犯人であるかのように報道し、その人物の生活基盤や名誉を破壊してしまうこと
『毎日新聞』2011年11月21日付 「覚書」より
(2) 「情報源の秘匿」などの報道倫理の逸脱による被害
→ある重要な情報の提供者の存在を明らかにすることで、その情報提供者に危害が加えられてしまうこと
(3) 事件被害者への報道被害
→被害者やその家族などへの過度な取材により、彼らのプライバシーを侵害し精神的苦痛を与えること。 2次被害を引き起こす例も少なくない。
(4) 地域住民への取材による報道被害(集団的過熱取材)
→事件が起きた地域に大取材陣を送り込み、地域ぐるみで無神経な取材を行い、時には犯人捜しを繰り広げ、その地域の住民に不安感を与えること
(1)スウェーデンでの取り組み
○匿名報道主義
→権力統治に関わる問題以外の一般刑事事件においては、被疑者・被告人の名前は原則として報道しないという主義。
つまり、「公人」(政治家・公務員・警察幹部・大企業経営者など社会的影響力を持つ者)はその地位や職務を利用して罪を犯した場合は、市民はその名を知る必要があるが、一般市民の事件では名を知る必要はなく、その人物や家族への社会的制裁を避けるためにも匿名にすべきという考え方である。
なお、日本のメディアは「個人の特定は犯罪報道の基本要素であり、匿名報道になると記者の緊張感が薄れたり、警察の権力行使のチェックもできなくなる」などして、実名報道主義を現在でも貫いている。
○メディア責任制度
→日本では報道被害者が名誉を回復するには、加害メディアを相手取って名誉毀損の民事訴訟を起こす以外に有効な手段はないが、それでは被害者自身の負担が大きくなるため、名誉回復を、法や裁判ではなく、メディアが自主的にメディア全体の責任で取り組み、報道加害を繰り返さないようにする制度。
そのポイントしては、
などがある。
(2)日本での取り組み
○被疑者の呼び捨て廃止
→1980後半〜90前半にかけて高まった報道批判をうけて、毎日新聞を皮切りに犯人視報道を防ぐ目的で改革案を打ち出したが、結局犯罪報道の構造は変化しないままだった。
☆メディアの対策の問題点
(1)メディア法規制の動き
○1998年 「報道モニター制度」創設
→自民党による報道監視制度
○1999年 「個人情報保護法」国会提出
→一次廃案、部分的な修正を経て2003年に可決・成立
○2002年 「人権擁護法案」国会提出
→一時廃案、部分的な修正を経て上程中
これら2つの法案は、集団的過熱取材などによる人権侵害を規制するのが本来の目的であるはずだが、、「民間に対する規制」の中にメディアなどを含めてしまい、政府・自民党にとって都合の悪い言論・報道を権力的に規制しようとするすり替え法案であるとされている。
☆政府の取り組みの問題点
これまでに述べた報道被害に対するメディアや政府の取り組みの問題点を参考にした上で、「市民」主体の対策案の提案をしていきたい。
Last Update:2014/02/07
© 2014 Moe Nakata. All rights reserved.