東海地震 静岡における対策

早稲田大学 社会科学部
政策科学ゼミ 2年
杉橋夏来

出典:静岡県公式ホームページ

研究動機

 私は静岡出身であるため、幼いころから東海地震について意識させられてきた。物心がついた時から明日きてもおかしくないと教えられてきたものの、現在に至るまでまだ東海地震は発生していない。それとは別に新潟中越地震、東日本大震災をリアルタイムで目の当たりにした。また、自分が生まれた翌年には阪神淡路大震災が起きている。
 個人的には高校の途中から地学部に所属しており、地震については人一倍関心をもって取り組んできた。その中で、地震予知の研究やメカニズムについては理系の研究分野であると感じたが、対策やその後の復興におけることについては文系である自分たちが考えていくべきであると当時から感じていた。
 日本は地震大国でありながら、毎回震災後に多くの課題が浮かび上がってくる。たとえば阪神淡路大震災であれば火災による被害の拡大。新潟中越地震であれば土石流、そして東日本大震災であれば津波、そして現在も課題が残されている原発の問題である。東海地震で最も被害がおおきいと考えられている静岡は山、海、住宅密集地、そして原子力発電所がある。過去の震災の経験から学びより被害を抑え、なおかつその後の復旧が迅速に行うための準備が必要であると考え、このテーマを研究することにした。

 研究のながれとしては、静岡県の防災プランの特徴おさえるところからはじめる。そしてそのプラン作りにいたる経緯や、指揮系統をはっきりさせる。また防災のシステムの観点から過去の地震をふりかえり、静岡の防災システムと比較したい。さらに静岡防災センターなどの施設にヒアリングを行い、それらの中から課題を明確にしたい。

章立て


はじめに  東海地震とは

 

(要改定)

 東海地震の対策について考える前に、まず東海地震がどのようなものであるかを確認しておく。

 駿河湾の海底には、駿河トラフと呼ばれる細長い溝状の地形がある。駿河トラフは、フィリピン海プレートがその北西にある陸側のプレートの下に向かって沈み込むプレート境界だと考えられている。このプレート境界を震源域として、近い将来大規模な地震(マグニチュード8程度)が発生すると考えられており、これが「東海地震」である。
 昭和53年(1978年)に、地震を予知し、地震による災害を防止・軽減することを目的とした「大規模地震対策特別措置法」(以下、「大震法」)が施行された。また、平成13年(2001年)には、中央防災会議(議長:内閣総理大臣)の専門調査会において、大震法施行後から20数年の間に得られた地震学の知見や観測成果をすべて取り入れ、それまで想定していた震源域についての見直しが行われた。

 ひとたび東海地震が発生すると、その周辺では大変な被害が生じると予想されている。そこで、東海地震の発生によって著しい被害が予想される地域が、大震法第3条第1項により「著しい地震災害が生ずるおそれがあるため、地震防災に関する対策を強化する必要がある地域」(「地震防災対策強化地域」)として指定され、数々の防災対策の強化が図られている。下図の黄色で塗られた領域が、現在の地震防災対策強化地域である(静岡県全域と東京都、神奈川・山梨・長野・岐阜・愛知及び三重の各県にまたがる157市町村、平成24年4月1日現在)。

出典:国土交通省 気象庁

第1章 静岡の特徴から考えられる二次災害

 地震において懸念すべきことは二次災害である。これはその地域の特色が関わってくる。まず第一に静岡県は約65パーセントが山地であることから、土砂災害について考える必要がある。以下の図を参照してほしい。山脈や山地が静岡県の大部分を占めているのがわかる。また、県内を富士川河口断層帯や糸魚川−静岡構造線が横切っていることがわかっている。つまり、山、がけ崩れが発生しやすい急傾斜地や地すべりの危険性が高い場所が多く存在しているのである。これらのことから土砂災害への対策は避けられないものであると考えられる。

出典:静岡県総合教育センター

 第二に津波の問題がある。津波は東日本大震災で多くの被害を出したことは記憶に新しい。国が発表した被害想定では津波高が最大で33メートル、浸水域が150平方キロメートルとされている。静岡県の被害が最大となるケースでは、全死者数役114,300人のうち約100,300人が津波によるものだという算出である。こうした津波からいかに県民の命を守るかが静岡県の防災対策の最大の課題と受け止める必要がある。

 第三に火災の問題がある。静岡県は県の中で人口に大きく偏りがある。人口密集地においては火災による被害が出ることが予想される。このほかにも、津波火災が東日本大震災で確認されていることから、こちらの延焼拡大についても対策する必要がある。以下が静岡県の人口内訳である。

人口総数 3,765007人 全国10位 (2010年国勢調査)

浜松市と静岡市に人口が偏っているのがわかる。私の実家である静岡市葵区に至っては市町村の中では3番手にあたる富士市よりも人口が多い。

 最後に原子力発電所についてである。東日本大震災でも最終的に最も厄介になったのがこの問題である。静岡県には浜岡原子力発電所があり、東海地震の際には同じようなリスクを負う危険がある。2011年菅直人内閣総理大臣(当時)の要請で現在停止中であるが、再稼働への動きは依然としてあり、中部電力も準備を進めている。浜岡原子力発電に関しては再稼働の是非についても考える必要がある。以下が浜岡原発の位置である。

出典:  ザ・サイト


第2章 静岡県地震対策の歴史

 静岡県を含む東海地域は、以前から近い将来大地震の発生する可能性の高い地域として、地震予知連絡会の「観測強化地域」に指定されていた。昭和51年8月に、当時東京大学助手の石橋克彦氏が、駿河湾を震源とするマグニチュード8程度の大地震が明日おきても不思議ではないという「東海地震説」を発表したのを契機に、県では、地震対策を緊急かつ重要な課題として取り上げ、以来次のような対策を推進することになった。

静岡県アクションプログラム策定の経緯

 現在の東海地震対策において根幹をなしているのが静岡県地震対策アクションプログラムである。1976年に東海地震説が発表されて以来、静岡県として上記のような流れで対策をすすめてきた。当初は地震予知が最大の地震対策であると考えられていた。しかし、1995年に阪神淡路大震災を受けて、地震予知による防災が最優先課題ではないという見解が強まった。そこで地震が起きることを前提に、いかに突発対応できるかという方針に転換された。そこで生まれたのが静岡県地震対策アクションプログラムである。これは具体的な対策(住宅の耐震化、土砂災害の整備など)を細かく数値目標をだし、期限を決めて目標達成にむけて対策をおこなうというものである。基本目標としては@地震・津波から命を守るA被災後の県民の生活を守るB迅速、かつ着実に復旧、復興を成し遂げるという3点が掲げられている。この目標を達成するために多くの具体的な整備(アクション)が進められている。またこれらのアクションは進捗状況や新たな視点からの対策など複数回点検が行われている。それが2001、2006、2013と分かれている理由である。特に、アクションプログラム2013は東日本大震災の津波の神代な被害を教訓にして津波対策を多く取り込んだものになっている。


第3章 静岡県と国の連携

経緯

 1976年、東京大学の石原克彦氏が発表した「東海地震説」が特ダネとして報じられた。静岡県内では、この発表のまえからメディアを中心に遠州灘で大地震が来るのではないかとされていた。しかし、本格的に行政が動き出すこととなるのは石橋氏の発表からである。東海地震への対策には、当時の静岡県知事であった山本敬三郎氏が地震対策に尽力した。

 東海地震説が発表されてから1か月後、静岡県庁消防防災課の中に地震対策班がつくられた。班員は学会の中枢にいる地震学者らをまわり、情報収集をした。また、議員予算委員会に参考人として出席し、東井海地震説を肯定した浅田敏教授を自民党県連に招いて講演を依頼するなどして交流をもった。その後、静岡県は浅田教授をはじめ地震予知連会長の萩原氏、力武教授らのアドバイスを受け地震対策を進めていった。このように、静岡県の防災体制をつくりあげる過程として、地方行政のトップが学者の意見を中心に進めていったことがわかる。

 しかし防災対策を進めていくうえで、東海地震の規模を考えると地方行政だけでは手におえないという問題点が浮上した。つまり地震対策の一元化が必要であるという結論にいたり、ここから静岡県は国にこれを働きかけを行った。まず山本知事は関東知事会に「地震対策の一元化を国に要望する」ことを緊急提案し採択される。また12群県市が対策連絡協議会をつくり、東海地震の対策について国に働きかけることになった。ところが国ではどの官庁が一元化の親元になるかでもめてしまい、すぐに結論が出なかった(1977年に気象庁が地震予知情報課を新設する)。以下はその状況を伝える静岡新聞の記事である。

出典:静岡新聞 左(1976.11.12) 右(1976.11.10)

 左の記事では12都道府県市が対策連絡会議を作ったことを報じる新聞である。関係自治体が初会合を行ったのである。これに加え、東海北陸7県の県議会議長会も国に予知体制の強化、また地震対策における助成の働きかけをしたことが確認される。これらの動きは石橋氏の東海地震説から3か月しか経っておらず、地方の動き出しが大変早かったことがここからわかる。  一方で右の記事では国の対応が遅れている様子がうかがえる。静岡県知事が国に対して地震対策の一元化を要望した際の国の混乱を報じたものである。地震に対してどこが責任を持つのかということで、国土地理院、防災科研、気象庁で激しく対立したことがわかる。この時代は防災対策の根幹は地震予知だという考えが強く、どこにデータを集めて分析するべきかでもめることになった。  このように、地方からの働きかけとは裏腹に、国としての対策が遅れがちになった経緯を読み取ることができる。

 また、山本知事は東海地震対策を効果的に行うには地震対策の法律が必要であると考えた。これを全国知事会に提案し、知事会のなかで地震対策特別委員会が作られた。この委員会を中心に地震法の制定に向けて国にはたらきかけることになる。そして1978年4月に衆議院災害対策特別委員会で大規模地震対策特別措置法の審議が始まり、同6月に成立することになった。さらに法律ができても財源がなくては対策が進まないととのことで、財政特例法を求めた。これについては大蔵省がかなり難色を示した。しかし山本知事は直接田中角栄氏の自宅に向かい直談判をするなど強力に働きかけ、ついに1980年、地震対策特例法が成立した。

 上記のように、地方行政がまず取り組みがはじまり、国に働きかけることで東海地震対策が推進されてきたことがわかる。

第4章 静岡の防災体制


第5章 過去の地震から学べること 〜防災システムの観点から〜

【阪神淡路大震災】

 阪神淡路大震災は1995年に起きた兵庫県南部地震によってもたらされた震災である.これは近代都市圏を直撃した都市直下型地震としては初めての例である。阪神淡路大震災の被害をうけた地域に比べて人口数などの規模では及ばない。ただ全国10位の人口数、その中でも35ある市町村のうち静岡市と浜松市という2つの市だけで全体4割を占めていることを考えれば、大都市での被害から学ぶことは多いと考えた。

 この地震の被害の特色は7つにわけることができる。

 直接的な被害がもっとも大きかったのは家屋の倒壊による圧死もしくは窒息死によるものであった。死者5488人のうち、その77パーセントが建物の倒壊による圧死、窒息死によるものであり、火災による焼死、熱傷が9パーセントであることを厚労省が発表している。また高齢者と下宿している大学生の被害が大きかったことを考えると@ABCEはつながっていると考えられる。高齢者や下宿生は古い木造建築に住んでいるケースが多かったということだまた防火対策がきちんとおこなわれていないことが多かったため、火災が急速に広がった要因にもなった。これらのことは家屋の耐震・耐火構造の基準の見直しが求められることになった。一方でこのような大きな地震にも関わらず、耐震構造であった比較的新しい建造物の被害が軽微であったこともわかっている。このことからいかに耐震構造の家を普及させることが必要かがわかってくる。

 また、DFに関してはシステムを事前に整えておくことが必要であることがわかる。Dに関しては、東海道新幹線、東名高速道路と主要な都市を結ぶ交通網が静岡にはある。被災した際の救助援助においてここの交通が滞ることは避けたい。実際、阪神大震災阪神高速道路の一本脚高架線が600メートルにわたって倒壊した。地震が起こったのが早朝の6時前だったため直接的な被害はそう多くなかったが、あと一時間地震が来るのが遅かったら大きな被害が出たと考えられる。直接的な被害、そして救援による交通網の確保という2つの点で耐震性について考える必要があるであろう。Fに関しては、行政組織の人間も被災することは当然想定できることである。それにもかかわらず対応ができなかったということは抜本的に被災後の対応について考え直すべきなのではないかと考えられる。

【新潟中越大震災】

 新潟中越地震は上記の兵庫県南部地震以来9年ぶり、観測史上2回目の震度7を計測した地震で、2004年に発生した。なお、新潟中越大震災という呼称は一般的ではないものの新潟県は同11月から使用しており、二次災害を含めた被害という意味で今回使用した。この地震で着目すべき点は2点、1つは山間部における山崩れや土石流の発生による被害。もう1つは震災後の被災者の生活面である。長期間車の中で寝泊まりしていた人がエコノミークラス症候群などで命を落とすケースがあり、被災後の生活保障においてここから学ぶことは多いと考えられる。

第6章 今後取り組むべき問題

 現在静岡県は様々な取り組みを行っている。しかし、そこに暮らしている一般の人々の認知度は低く、行政との温度差があるように思える。様々なプランが実際に実現できるかについて考えていく必要がある。

第7章 政策提言


参考文献

 
Last Update 2015/2/5
© 2014 Natsuki Sugihashi. All rights reserved.