東京都のごみ処理問題


-名古屋市のごみ処理成功事例から-


社会科学部
政策科学ゼミナール2年
片矢 有紀

研究動機

 自分自身が愛知県名古屋市出身であり、小学生の時に名古屋市のごみ処理革命(後述)に、一市民として参加した。この結果、名古屋市は市民の意識改革と行政の収集方法の見直しなど多角面からの取り組みにより短期間に大幅な埋立量の削減に成功した。高校卒業後、上京するまで名古屋市の厳しいゴミ分別や環境への意識が常識だと思っていたが、東京都では燃えるゴミの範囲の広さなど疑問を持つ事が多かった。そして東京都のごみ問題について調べて行くと、かつての名古屋市と同じ危機に瀕している事を知り、名古屋市をモデルケースとし政策の提言が可能ではないかと思った。また東京は日本の中心である為、そかつての大量生産・大量消費の思想を背負うゴミ処理ではなく、現代に対応したゴミ対策を行っていくことは他の地域、他の国に指針を示す事になり、環境大国として世界に発信する意味でも非常に重要な問題になってくると感じる。

章立て

東京都の埋立地問題

 まず東京都23区のごみは収集・運搬された後、中間処理を施し埋立地に送られる。この埋立地というのは現在使用されている中央防波堤外側埋立地新海面処分場であるが、この地での埋立が終了した後の新たな候補地は見つかっておらず、延命化が鍵となっている。今後の埋立地不足に対し明確な解決策がないというのが最も大きな問題である。
 具体的に中央防波堤外側埋立地新海面処分場には1日およそ三千九百トンのごみが埋め立てられており東京都環境局による試算ではこの地の寿命は50年程度とされる。 50年という期間はまだ十分猶予があるように思えるかもしれないが一朝一夕の対策は有用でなく、また仮に処分場が満杯になり他の都道府県や自治体等に場所を借りようとしても日本全体の10分の1のごみを受け入れ可能な地を模索するというのは非常に困難である。後述する名古屋市のゴミ処理革命の立役者でもある前名古屋市長の松原武久氏は著書の中で「名古屋は大規模な処分場を造ることを前提に、ごみを減らすという施策をしてきていない。未だに大量生産、大量消費、大量廃棄という非常に古い形のごみ施策をしている。(松原,2001:58)」という批判を受けた事を記している。これは東京にも当てはまる批判であり、同様に処分場がなくなった際に新たな処分場をやむを得ず使用する’セカンドベスト’の対策をとらざるを得なくなる前に新しい形の施策を提言するタイミングであると考える。

名古屋市のゴミ処理革命

 私自身も参加した名古屋市民のごみ革命について説明する。1997年、名古屋市は愛岐処分場という埋立施設を使用していた。しかしこの処分場の使用可能年数は、残りわずか3年半となった為、名古屋市は新たな処理場の建設を余儀なくされた。同時に他の自治体へ場所の提供を求めたものの、その莫大な量から受け入れを歓迎するところはなかった。そこで新たな埋立地建設場として候補としてあがったのが、名古屋市熱田区にある藤前干潟である。注意したいのは、名古屋市は処分場の寿命の直前でここに白羽の矢を立てた訳ではないということだ。1997年の地点で、藤前干潟への埋立地建設構想は約17年間練られてきた計画であった。しかし17年という歳月の中で、世の趨勢は変化し、1997年時には藤前干潟は、日本最大のシギ・チドリ等の渡り鳥の経由地として市民に親しまれるようになっていた。ここを埋め立てる事に対し、市民だけでなく渡り鳥の保護団体や環境保全団体をはじめとして、日本中から大きな反対運動が起こった。その結果、名古屋市は藤前干潟への埋立地建設を断念することとなった。またこれを契機として藤前干潟はラムサール条約にも登録され保全される事となった。
 ここで名古屋市はごみ問題について大きな方向変換を行った。新たな埋立地を造るのではなく、ごみの減量化を意図した施策を行う、というものである。埋立地の建設は、行政が主体となって行えばよいが、ごみの減量化には市民の協力が不可欠である。そこで始まったのが松原前市長が提唱する名古屋市民のごみ革命である。
 具体的な行政から市民へのアプローチを4つあげたい。
@ごみの16分別A指定ごみ袋の制度化B事業系ごみの有料化C小学生など未来を担う世代を主とした意識改革である。
 これらの行政と市民が一体化して行ったごみ革命により、名古屋市は短期間に大幅な成果をあげた。2年間でごみの総排出量は20%減少し、埋立量は60%の削減に成功した。2015年現在も、名古屋市は市民一人当たりのごみの排出量は、全国で最小であり引き続き環境都市としての発信を精力的に行っている。

東京都の現行のごみ事情

 前述した通り、中央防波堤外側埋立地の寿命は限られており、新たな処分場の目処はたっていない。東京都は現在延命化に向けて様々な策を講じている。資源回収から再資源化までのルートを整備しリサイクルを推進したり、事業系ごみの有料化するなどの取り組みがそれである。他にもインターネットや講習会などを通じて、ごみへの市民の意識改革を行っている。このような取り組みにより東京都のゴミ埋立量は減少傾向にある。しかし相対的に他の都道府県と比較すると、その量は日本全体の1/10を占めており、より高い次元の対策を講じなければならない状況である。

参加者の定義とゴールの設定

 まず当該の問題への参加者の定義を行いたい。
都民、ゴミ処理局の職員、行政、ゴミ収集人、埋立地での労働者、ゴミ分別ボランティア、観光客、ゴミ袋作成業者と参加者を定義する。ゴールとしてはあくまでも名古屋市のごみ処理事例をモデルケースとし、ごみを収集する側(行政)、ごみを出す側(市民)、ボランティアなどごみの減量化に取り組む団体の三方向から、ごみの減量化と埋立地の延命化に有用な政策を提言していく。

応用可能な具体的政策

ごみ収集サイドの取り組み

 イタリア・ナポリの例(ごみの埋立地問題の解決に失敗し、街にごみが溢れた。そこから民営化を図る事で立て直しを図ったがその民営化組織がマフィアと結びつくなど未だに根深い問題をはらんでいる。
愛知県名古屋市でのごみ袋の有料化、及び16分別。

ごみを出すサイドの取り組み

 名古屋市を始め横浜市などごみ問題へ積極的に対策を推し薦めている都市はごみ減量化をキャンペーン化することで幅広い層の市民の参画を奨励している。
横浜市ではミーオくんというマスコットキャラクターを導入し小さな子どもでもごみ問題を意識出来るよう取り組みを行っている。
また、名古屋市では特に小学生などまだごみの捨て方へのステレオタイプを持たない世代を主眼に置いた教育を実地した。未来を担う世代への意識改革は、名古屋市がごみ革命から十数年経った今でも全国で一人あたりのごみ排出量が最小である理由の1つである。

政策提言

参考文献

Last Update:2015/5/5
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