日本におけるサッカーを利用した地域振興策
−地域クラブの事例から−
ゼミT
社会科学部2年
木村 巧

明治安田生命J1リーグ所属・FC東京のゴール裏の様子
出所:味の素スタジアムにて筆者撮影(撮影日:2015年4月18日)
研究動機
イングランドで開催された2015年のラグビーワールドカップでは日本代表が躍進し、国内に大きな影響を与えたように、商業化されたスポーツが経済に与える影響は非常に大きい。
その一方で、日本が社会問題として抱えている問題には地方の過疎化や高齢化などによる地域経済の停滞が存在している。国内の地方が抱える問題に対してスポーツ経済を利用することでそれら諸問題の解決に寄与できる一面が存在するのではないかと考え、研究するに至った。
その中でも特に競技人口が多く、国内ほぼ全域にプロクラブが存在しているサッカーに焦点を当てた。
章立て
- 日本の地方経済状況
- スポーツの商業主義化
- 日本サッカー界の現状
- 日本の地方に求められるサッカークラブ
- 政策提言
3.日本サッカー界の現状
日本サッカーの発展の契機となったのは1993年のJリーグ開幕という大きな出来事であった。
Jリーグの開幕から3年後の1996年には「Jリーグ100年構想」が掲げられ、スポーツ文化の定着による観戦やスポーツを実際にしてみるといった様々なスタイルを通して国民の心身の健康と充実を図る理念が提唱された。「Jリーグ100年構想」の実現を目指し、これまでの日本のスポーツ界には存在しなかった新たな概念を次々と導入していった。本来日本のサッカーは学校教育のための体育として普及していった側面があり、「Jリーグ百年構想」においてもその系譜が受け継がれていった。また「スポーツを生み出した欧米では、早くからスポーツは公共的な存在であると認識され、世界的にもその考え方が主流である」(広瀬,2004 p.79)とあるように、スポーツクラブは本来地域社会と不可分な存在である。プロ野球が人気を得ている日本においてサッカーの普及を図るためには、「地域振興」というキーワードにおいて幅広く支持を集める目的も存在した。以上からJリーグではクラブチームの地域密着化の為に企業名ではなく地域の名前を冠したチーム名にする必要があった。これらは非営利団体もしくは株式会社化し、スポンサー料や入場料収入を基盤に経営していくシステムとなっている。地域社会の振興とサッカークラブが結びついた事例として、新潟市等をホームタウンとするアルビレックス新潟を紹介する。
3-1.アルビレックス新潟
新潟県新潟市・北蒲原郡聖籠町をホームタウンとするアルビレックス新潟は新潟イレブンサッカークラブを設立母体として結成され、1999年に創設されたJ2リーグにFC東京ら10クラブとともに参入した2003年にリーグ優勝を飾りJ1リーグに昇格、現在ではサッカークラブを海外にも保有している他、野球やバスケットボールチームを保有し総合スポーツクラブとして発展している。
新潟市においては1950年代からJR新潟駅を中心に地域開発を推し進めていた。その一環として、鳥屋野潟の干拓・宅地化も行い、市街地が外延化した。
しかし高齢化や人口の減少が進むにつれ新潟市内における小売販売額が低下し経済が停滞していった。
そこで当時開催が決定されていたFIFAワールドカップ日韓大会の開催地に立候補することを決定し、ワールドカップ終了後も大会のために用意したスタジアムの活用と経済効果を見込んでプロサッカークラブの誘致を検討した。
ところが当時新潟県にはプロサッカークラブが存在しなかったため、県内のクラブを統合して結成した。ワールドカップの誘致という共通の目的のために県協会と自治体の協力の下、地域に密着した経営を可能とさせた。また新潟県にはスポーツ文化がなく、サッカー不毛の地と呼ばれた過去があった。こうした地域において、無料券を配布するという施策をとった。スタジアム来場のきっかけとしてまず無料で体感してもらい、選手のプレーやサッカー観戦というものを体感してもらう狙いがあった。地域クラブの場合、損失の補填を行う親企業が存在しないため、安定した経営を進める必要がある。そのためには、入場料収入やスポンサー収入が非常に重要である。アルビレックス新潟の場合、無料券の配布を普及策として行う傍らで観客層を分析・ターゲット層を絞ることで徐々に収益を上げることに成功した。
結果として持続的な経営を可能とし、地域の活性化に貢献している(図1参照)。
(図1)
参考文献
・広瀬一郎(2004)『「Jリーグ」のマネジメント』 東洋経済新報社
・平田竹男 (2012) 『スポーツビジネス最強の教科書』 東洋経済新報社
・アルビレックス新潟 公式サイト http://www.albirex.co.jp/ (最終アクセス:2015/12/15)
・国土交通省 都市地域整備局 まち再生事例データベース 「Jリーグチームで地域振興」 http://www.mlit.go.jp/crd/city/mint/htm_doc/pdf/061niigata.pdf (最終アクセス:2015/12/15)
・FootballGeist 観客動員数 http://footballgeist.com/audience?id=team&no=アルビレックス新潟 (最終アクセス:2015/12/15)
・J.LEAGUE Data Site 年度別入場者数推移 https://data.j-league.or.jp/SFTD12/search?competitionFrameName=J1リーグ&teamFlag=0&page=&startCompetitionYear=1999&endCompetitionYear=2015&competitionFrame=1&teamIds=78 (最終アクセス:2015/12/15)
・内閣府 平成16年度版国民生活白書 「第1章 地域で起こっている注目される活動事例 家族でワクワク、サッカー応援(アルビレックス新潟)」 http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/h16/01_honpen/hm42000.html (最終アクセス:2015/12/22)
Last Update:2015/1/29
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