植物工場の推進

〜東北復興をモデルに〜

政策科学ゼミナールT
 社学2年
 浅野純輝

研究動機:

 日本の農業は生産者の高齢化、後継者の不足や食糧自給率に占める割合の低下という問題を抱えており、この現状を打開できる策はないかということに興味を持った。
 また、植物工場で生産された野菜を食べる機会があり、味・見た目ともに問題は無かった。
 この経験から植物工場を軸とした研究をしたいと考えた。


章立て

  1. 植物工場とは
  2. 日本国内における植物工場の現状
  3. 日本の植物工場における具体的な事例
  4. なぜ、東北なのか
  5. 農業コンサルティングの必要性


第一章 植物工場とは

 植物工場とは、施設内の温度、光、炭酸ガス、養液などの環境条件を自動制御装置で最適な状態に保ち、作物の播種、移植、収穫、出荷調整まで、周年計画的に一貫して行う生産システムである。 施設内での生産なので、天候に左右されることなく作物を周期的に安定供給でき、病害虫の被害を受けずにすむほか、高齢者や障がい者の方の雇用にもつながるなどの利点がある。
 植物工場は大きく3つに分類される。
 一つは完全人工型。完全制御型の植物工場とは、外部と切り離された閉鎖的空間において、完全に制御された環境、すなわち人工的光源、各種空調設備、養液培養による生産を行う。徹底管理の下で生産された野菜は無菌状態で出荷され、通常の野菜よりもはるかに長い賞味期限を有している。ただし、施設の建設、運営コストが高いというデメリットも存在する。
 二つ目は太陽光型。ガラスファームとも称される。温室等の半閉鎖環境において、太陽光の利用を基本として、雨天・曇天時の補光や夏季の高温抑制技術等により、周年・計画生産を行う。できる野菜の特徴は露地栽培と変わらない。また、完全人工型ほどの管理体制では無いため、完全な防虫、防菌は不可能。
 三つ目は人工・太陽光併用型。太陽光だけではまかなえない夜間や雨天、荒天時の生産を安定させるために太陽光型施設に人工灯を備えた施設。


第二章 日本国内における植物工場をめぐる動き

 日本国内における植物工場をめぐる動きは、1980年代から隆盛を始め、植物工場の第一次ブームを巻き起こした。
 例としてはダイエーのバイオファームや筑波万博の回転式レタス生産工場などが挙げられる。

 1990年代には、農水省から補助金が導入されたこともあり、第二次ブームとなった。
 マヨネーズなど野菜に対する調味料などで有名なキューピーが工場野菜の販売を始めるなど、本格的な流通経路獲得に向けた動きもあったが実を結ぶことはなかった。

 その後、10年あまり植物工場に大きな動きは無かったが、2009年以降国家プロジェクトが始まり、再び活性化。第三次ブームの火付け役となった。 この根底には日本政府が描く成長戦略内の「農林漁業の底力の発揮」に設定された「植物工場の普及拡大」による補助金の給付がある。
【主な補助金】
植物工場の普及・拡大(経産省)国費50億円程度(定額)
1.植物工場の基盤研究拠点の整備
2.植物工場のモデルの設置
植物工場の普及・拡大総合政策(農水省)国費96億円程度(@定額、A半額)
@.モデルハウス型植物工場の設置
A.植物工場の建設・拡大支援事業、リース支援事業

このように施設の導入や整備に多額の補助金が導入されているが、一方で継続的な運営や、植物工場からできた野菜の具体的な流通をサポートする政策は存在していない。 これは、日本の植物工場で倒産が多発している大きな原因の一つであると言えるだろう。


第三章 日本の植物工場における具体的な事例

この章では日本の植物工場の問題点を実際の事例から、考察したい。
【事例1】さんいちファーム
宮城県仙台市の被災農家3人が軸となり、植物工場を経営。補助金による支援もあり、建設された植物工場は「復興のシンボル」として注目された。

しかし、メーカーからの技術指導の拙さ故か、生産が安定せずに倒産。建設にあたり支出された2億5200万円は回収不能となった。

【事例2】MIRAI株式会社
宮城県多賀城市の「みやぎ復興パーク」で植物工場を稼働。
日に1万株のレタスを収穫可能な世界最大規模の完全人工型植物工場。
さらに創業者の嶋村茂治元社長は千葉大学大学院で蔬菜園芸学(=水耕栽培)を専攻。
大手企業との共同開発などを経て、大学発ベンチャーとして「みらい」を設立した。
人材、設備ともに当時の最高峰の植物工場として誕生。
産業界、政界からの期待値も高く、当時首相だった麻生太郎氏も訪問した。 しかし、農作物の生産が安定せず、倒産。
生産安定を軸とする完全人工型の植物工場では起こりえない倒産となった。

【事例3】スプレッド株式会社
京都府亀岡市において世界最大規模の日量21,000株のレタスを生産する植物工場亀岡プラントを建設。
6年間もの試行錯誤を繰り返し、独自の栽培技術や生産管理技術を確立。
また、2013年には大規模植物工場では困難と言われた黒字化を達成した。
この理由には、事業化に必要な要素を全て自社内で網羅し、生産・開発、物流、販売の三者を連携させる体制を築いたスプレッドの事業戦略があるだろう。


第4章 なぜ、東北なのか

現在、日本の植物工場を導入するうえで1番参入障壁が低い地域は東北地方である。
その1例には福島県の「ふくしま産業復興企業立地補助金」があたるだろう。
東日本大震災及び原子力災害により甚大な被害を受けた福島県において、県外からの新規企業立地や県内での新増設を行う企業を支援し、県内における新たな雇用の創出と復興の加速化を図ることを目的に補助金の交付が行われている。
【交付要件】
投下固定資産額 1億円以上 新規地元雇用者数 5人以上
投下固定資産額10億円以上 新規地元雇用者数10人以上
投下固定資産額50億円以上 新規地元雇用者数50人以上
投下固定資産額100億円以上 新規地元雇用者数100人以上>
このように雇用者の人数に応じ、かなりの金額補助を受けることができる。

また、植物工場の特性も東北の現状に適していると考える。
植物工場は水耕栽培が基本であり、土壌の状態をかかわらず、作物を生産することができる。
このことにより、塩害や放射線汚染の疑いのある地域でも作物が生産でき、放棄された土地の有効利用が可能だからだ。
一方で、しっかりとした生産方法や流通経路を整備しなければ、結局のところ、倒産への片道切符となっている状況に変わりない。


第5章 農業コンサルティングの必要性

日本と同様の状態に陥っていた1970年代のオランダは、施設園芸の強化を官民一体となって推進。
主に太陽光型を主軸とし、現在ではオランダの輸出産業の一角を担うほどの躍進を遂げた。
この背景には農業コンサルティング会社の存在がある。
オランダは「OVO Traid」というリサーチ、コンサルティング、教育の三本柱からなる農業政策を掲げ、農業コンサルティングを強化。
結果として多くのコンサルティング会社が生まれる契機となり、植物工場を運営するうえでの効率的な環境データが集積、共有される基盤となった。
また、コンサルティング会社が流通経路も整備することで、業績の安定化にもつながっている。

一方、日本では多くの農家や企業が連携せずに独立して植物工場を運営。
「ノウハウ不足」「生産の不安定さ」といったデータ不足に起因した倒産を引き起こしている。
日本の植物工場で必要なことは、コンサルティング会社によってこの状況を整理し、流通先を安定化させることであると私は考える。





参考文献


Last Update:2017/2/6
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