出身の兵庫県三田市は1980年代から北摂三田ニュータウンとして複数のニュータウンが同時に開発されたため、かつて10年連続で人口増加率が日本一になったことがある街であり、今後集団的、かつ急速な高齢化が見込まれている。
加えて、全国各地のニュータウンの人口減少率と高齢化率が他の地域の平均値を上回っており、自治会組織の主体が高齢者となっているために存続が危ぶまれているという記事を見た。自治会組織は多様な家庭が集まるニュータウンにおいては公共の設備管理を担う非常に重要な存在であり、住環境維持の重要なアクターである。
少子高齢化が進み、また高層マンションの建設などにより人口の都心部への集中が加速する日本において、ニュータウン地区に若い世代の家庭を呼び込んで若年層の人口を増加させるというのは現実的に難しい。そんな中でニュータウンに住む人々の快適な住環境維持には何が必要かを主な研究課題とし、ニュータウンの形成要因から調べ、ニュータウン各地の現状を考察、先行研究も参考にし、必要であれば実地調査も行うこととする。研究の進度、また途中で判明した事実などに柔軟に対応しつつ、最終的に政策提言に繋げたい。
朝鮮戦争による特需によって、1950年代初頭に日本は好景気を迎えていた。その中で、人口の都市部への集中が進み住宅不足が深刻化。対策として1955年に鳩山一郎内閣は「住宅建設10ヵ年計画」を策定し、これに基づきURの前身である日本住宅公団が設立される。
その後、高度経済成長期の1963年、住宅供給に加えて良好な居住環境の整備を目的として新住宅市街地開発法が制定され、この法律に基づく新住宅市街地開発事業がニュータウン造成の中心となった。
ニュータウンは都市部人口の受け皿ともいえるため、郊外に、かつ計画的に建設されたことが特徴として挙げられる。
これまでにニュータウンは公的供給46ヵ所、民間開発のものも含めると全国に約2000ヵ所存在する。代表的なニュータウンとしては大阪府吹田市、豊中市に跨る千里ニュータウン、東京都稲城市、多摩市、八王子市、町田市で構成される多摩ニュータウンなどがある。
千里ニュータウン
(出典:豊中市)
多摩ニュータウン
(出典:東京都都市整備局)
ニュータウンの建設、造成にあたって、日本における建築計画学の祖である吉武泰水の提案により千里ニュータウンなどの住宅市街地計画や国交省の都市計画運用指針に反映された市街地形成の方法論として近隣住区論というものがある。
近隣住区論はC.A.ペリー(米、1872〜1944)によって提唱されたひとびとの良好なコミュニティ形成を目的とした方法論であり、内容としては住宅地、商業用地、公園等をセットにした市街地形成を主としている。
近隣住区論には、方法論を構成するうえで欠かせない原則があり、
@規模:小学校が1校必要な人口に対して住宅を供給。
A境界:住区は周囲を幹線 道路で区切る。
Bオープンスペース:公園緑 地のシステムを持つ。
C公共施設用地: 住区の中央部か公共用 地の周囲に設ける。
D店舗地区:1住区に1カ所 以上、住区周辺、道路の 交差点等に設ける。
E内部街路体系: 住区内幹線道路を設け、 通過交通を排除する。
以上を近隣住区論の6原則と呼ぶ。
近隣住区論の概要図(出典:ニッポニカ)
近隣住区論の代表的な実践例としてアメリカ、ニュージャージー州のラドバーンにおける宅地開発がある。このラドバーンで行われた宅地開発は1920年代に行われ、近隣住区論の考え方に加え、歩行者の道路と自動車の道路を分離させる歩者分離方式を採用したことで周辺道路の渋滞緩和を目指した。また、歩行者専用の道路スペースを確保するため、外周の幹線道路から住宅へつながる道路にクルドサック(袋小路)を採用し、通り抜けの必要なしに方向転換などを可能にした。
クルドサックの図(出典:goo 住宅・不動産)
開発開始から長いもので50年以上経過したニュータウンでは様々な問題が表れてきており対応が求められている。以下でニュータウンの現状を挙げていきたい。
まず、少子高齢化の急速な進行がある。ニュータウンの入居開始当初、当時の20代や30代の若い年代の人々が一斉に入居したために現在、60代以上の高齢者の人口が多くなっており、高齢化率も他の地域より高い数値を示す傾向にある。また、現代の若い世代の「都会志向」や都市部での高層マンションの建設などによって住宅の需要がニュータウンのような郊外から都市部に移り若年層人口が減少していることなどが考えられる。
少子高齢化が進むと、空き家の増加や、自治会組織の担い手不足、近隣商業地域の衰退によって住環境の水準が低下してしまう恐れがある。しかし、現代日本において、少子高齢化を抑制することは男女共同参画の観点からも非現実的であると考える。これを踏まえ、少子高齢化と並行して実現可能な施策を検討する必要があるのではないか。
千里ニュータウンの年齢別人口比(出典:国土交通省)
次に、住宅等が更新期を迎えていることだ。
ニュータウンの住宅を構成するものとして一戸建て住宅とマンションやアパートなどの集合住宅があり、それらの住宅が一斉に更新期を迎えている。一般的に木造一戸建て住宅の耐久年数は約40年と言われ、昭和30〜40年代にかけて建てられた住宅はすでに耐久年数を迎えている。集合住宅の場合は70年〜100年以上とされているがいずれ迎える更新期の向けて対策を講じる必要がある。
住宅の更新期到来に対しての対策が講じられないことで建物の安全性が保証されず、空き家や空きスペースの活用に支障をきたす他、空き巣の発生や不良の溜まり場化といった治安の悪化が懸念される。
現在、施策としては集合住宅において改修や建て替え工事が進む地域がある。しかし、実際に改修などの手段をとるとなると、そこに住む住民の合意を要するため、合意形成が難航する恐れがある。また、一戸建て住宅に対する改修工事などに対する補助が不透明であることも課題である。
千里ニュータウンの年度別入居戸数(出典:国土交通省)
今後の方針としては、まず柱として、近隣住区論に則って計画されたニュータウンは幹線道路や公共施設、学校、緑(公園)が1つの街区として整備されているため、優れたストックといえる。よって、この街区を生かした住環境維持のための施策の明示が有効であると考える。
上記の事項を踏まえて、今後の研究を進めていくこととし、現在行われている取り組み、具体例を調査し、先行研究をあたる。
Last Update:2018/1/21
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