チケット転売を防ぐ

−特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律案を糸口に−

上沼ゼミT
社学2年 田島光揮



出所:日本サッカー協会/お知らせ(2011年9月9日)

はじめにー研究動機ー

 筆者は、よくスポーツイベントなどの観にいくのだが、その際、発売即売り切れで購入できないことが頻繁にある。それほど観にいきたい人がたくさんいて、人気なイベントだから仕方ないと思ったいたが、どうやら原因は、それだけではないということを知った。ずばり、原因は転売である。観にいくつもりはさらさらないのに、営利目的でチケットを高額転売をしようと、大量にチケットを買占める人がいるのだ。また、中には、サーバーへ不正なアクセスなどをして不当に購入する人もいる。

   この転売問題が話題になった出来事がある。それは、2018年に平昌で開催された冬季オリンピックである。平昌オリンピックでは、チケットが完売であるのにも関わらず、多くの空席が発生したことが大々的に報じられた。この問題の背景には、チケットの転売問題がある。
 このことから、筆者は、約1兆3500億円もの多額の税金が使われる2020東京オリンピックにおいて、チケット転売による空席問題が発生しないように対策する必要があると思った。空席問題が発生することによって、本来、観戦に行けていたはずの人が支払っていた交通費や食費が失われ、多額の経済損失が生まれる。また、日本のソフトパワーに大きな打撃が与えられることが想定される。つまり、日本にとって大きな損失があるのだ。これらのことを考えると、チケット転売を防ぐ対策は行われる必要があると言える。

   さらには、2018年インターネット上でのダフ屋行為を規制する法律が成立するなど、高額転売問題は注目されてきている。


章立て

  1. チケット転売問題の現状
  2. チケット不正転売禁止法
  3. 先行事例
  4. 参考文献

1.チケット転売問題の現状



出所:朝日新聞デジタル/フィギュアチケット「完売」、なのに目立つ空席 なぜ?

 2018に行われた平昌冬季オリンピックにおいて、チケットの転売による空席問題が話題になった。チケットは完売しているのにも関わら、ず空席が目立った。その理由は、転売である。高額での転売を目的としたダフ屋や転売ヤーなどが、チケットを買い占めた。そのチケットをインターネットオークションなどで販売したのだが、値段が高騰し、結果的に売れ残り、空席が生じたのである。
 他にも転売が問題になった出来事は、多々ある。
 アーティストのライブやコンサートでも同様の事例が起こっている。
 2018年1月、転売業者グループの男3人とチケット転売仲介サイトの親会社の元社長を書類送検した、というニュースが報道された。その容疑は、安室奈美恵さんのライブチケットを、高額転売するために不正入手したというものであった。そして転売仲介サイトと癒着して購入額の倍に近い値段で売ったそうだ。また、女子高生が抽選で手に入れたチケットを定価数千円のところを数十万で売り、そして、その売上金で安いチケットを買い、またそれを高額転売するといった話もある。
 これらのような転売問題に対して、イベント主催者側も対策をしていないわけではない。例えば、代表的な対策をいくつかあげる。
 インターネット上で高額で転売されているチケットの座席番号を確認し、その座席を無効席とする防止策や、チケットを購入する際に個人情報の登録をしてもらい、入場時身分証明書などで本人かどうか、確認する制度を設けている主催者もいる。また、チケットを購入する段階では、席種が選べず座席がわからないようにして、当日会場に行って初めて座席がわかるような仕組みにすることで、高額での転売が起こる可能性を減らしていく努力をしている。しかし、これらの対策ではまだまだ不十分であり、特に、インターネット上での転売の規制、対策は進んでいない。

 インターネットが発展してきた今日、チケットの転売は、より容易で手軽になり、また、その方法が増え、複雑化してきた。そして、今後も、転売は、インターネットの発展と相まって、より横行していくと考えられる。
 2019年にラグビーワールドカップ、2020年に東京オリンピックを控える日本にとって、急ピッチで対策を施していかなければならない問題であることは間違いない。


2.チケット不正転売禁止法

 まず、チケット不正転売禁止法とは何かを説明していく。正式名称を「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」と言い、2018年12月成立し、2019年6月から施行される予定である。この法律の注目すべき点は、インターネット上でのダフ屋行為も禁止することができる点だ。これまで、日本では、インターネット上でのダフ屋行為を取り締まることができる法律や条例がなく、インターネット上では転売が横行していた。アメリカやイギリスでは、既に、インターネット上でのダフ屋行為を規制する法律が存在しており、日本は遅れをとっていたので、今回この法律ができた意味は大きい。
 次に、この法律の内容を見ていこうと思う。

出所:産経新聞/チケット高額転売に歯止め 規制法案が衆院通過、今国会成立へ
 この法律において「特定興行入場券」とは、興行入場券であって、不特定又は多数の者に販売され、かつ、次の要件のいずれにも該当するものをいう。

 一 興行主等(興行主(興行の主催者をいう。以下この条及び第五条第二項において同じ。)又は興行主の同意を得て興行入場券の販売を業として行う者をいう。以下同じ。)が、当該興行入場券の売買契約の締結に際し、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、かつ、その旨を当該興行入場券の券面に表示し又は当該興行入場券に係る電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器(入出力装置を含む。)の映像面に当該興行入場券に係る情報と併せて表示させたものであること。

 二 興行が行われる特定の日時及び場所並びに入場資格者(興行主等が当該興行を行う場所に入場することができることとした者をいう。次号及び第五条第一項において同じ。)又は座席が指定されたものであること。

 三 興行主等が、当該興行入場券の売買契約の締結に際し、次に掲げる区分に応じそれぞれ次に定める事項を確認する措置を講じ、かつ、その旨を第一号に規定する方法により表示し又は表示させたものであること。

  イ 入場資格者が指定された興行入場券 入場資格者の氏名及び電話番号、電子メールアドレス(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(平成十四年法律第二十六号)第二条第三号に規定する電子メールアドレスをいう。)その他の連絡先(ロにおいて単に「連絡先」という。)

  ロ 座席が指定された興行入場券(イに掲げるものを除く。) 購入者の氏名及び連絡先

 以上は、「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」の条文からの引用である。
 以上の条文から、規制の対象となるチケットは、簡単にまとめると、興行主が販売時に有償での譲渡を禁止しており、また、その旨がチケットに記載されていて、購入者の名前と電話番号や日時や座席などが記載されていること。そして、購入時に氏名などの個人情報を登録したものである。
 この法律において「特定興行入場券の不正転売」とは、興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするものをいう。
 また、以上の条文は、どのような行為が規制の対象になるのかが記載されたものだが、対象行為は、興行主の同意なしで何度も繰り返し販売価格を超える金額で譲渡することと明記されている。また、これらの目的で譲り受けることが対象となる。
 この法律から、全てのチケットが対象になるわけではないということがわかる。そして、当然、この法律だけでは転売を完全に規制することはできない。興行主が急遽行けなくなった人のために、公式のリセールできるサービスを提供する仕組みを作るなど、更なる対策は必要不可欠である。
 また、この法律が急ピッチで成立した背景には、2020年の東京オリンピックがあることは明らかである。近年、転売問題が話題になり横行し始めており、また、日本が転売対策で欧米に遅れをとっていることも、法の成立理由ではあると思うが、国を挙げたビックイベントであるオリンピックを成功させることを念頭において、同法が作られたと考えられる。研究動機でも述べたが、オリンピックで転売、そしてそれによる空席問題が起こってしまうことは、経済的にも社会的にも大ダメージである。

3.先行事例

 日本よりも転売規制が進んでいる国は、多い。まず、取り上げたいのは、イギリスである。
 イギリスは、2012年のロンドンオリンピックの際に、転売対策を進めた。法律を作ったり、仕組みを作るなどして対策していた。残念ながら、ロンドンオリンピックでは、この転売対策は、上手くいかなかったが、その経験から、その後、高額転売対策が進んでおり、転売を規制する法律が多く存在している。いくつか法律を紹介していこうと思う。

消費者権利法

 2015年に、インターネット上での高額転売から、消費者を守るために作られた法律。転売者に対して、チケットの詳細情報を公開する義務が課されている。詳細情報とは、例えば、座席の位置や額面価格などである。

ロンドンオリンピック・パラリンピック法

 2012年のロンドンオリンピックにおいて、大会組織委員会から与えられた場合を除き、大会のチケットをインターネット上を含む公共の場で又は業として転売することを禁止した法律である。また、自らが提供するサービスにおいて転売が行われている場合、それに対して対処を怠ると罰せられることも記されている。

デジタル経済法

 2017年、イギリス国内で行われるイベントのチケットでインターネット上で販売されたもので、購入枚数に上限が設定されたものを上限を超えて購入した場合、処罰の対象になる。

 これらの法律を見てみると、日本では、2018年の末に初めてインターネット上での転売を取り締まる法律が制定されたのに対し、イギリスでは、既にその3年前の2015年に、インターネット上での転売を取り締まる法律が制定されており、いかに日本が遅れをとっているかが見て取れる。だがしかし、イギリスにおいても転売問題の対処すべき課題は多くある。


参考文献


Last Update:2019/01/30
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