鎌倉市「観光渋滞」に伴う諸問題の解消

ー地元住民、観光客 双方に快適な街を目指してー

早稲田大学社会科学部上沼ゼミT 2年
池田颯永



「鎌倉市章」出所:・・・鎌倉市公式HP


はじめに



図1 鎌倉市観光客数推移 出典・・・第2期鎌倉市観光基本計画 資料編(pdf)

 現在日本を訪れる外国人観光客数は年々増加傾向にあり、2019年においては2940万人という世界11位の大規模なものとなっている。
 そして、筆者の住処でもある鎌倉市も国内外の観光客が年間およそ2000万人(平成29年現在)という現地住民のおよそ120倍という膨大な人数が訪れる。この鎌倉市への観光客数は近年減少傾向にあるものの、約10年で200万人程度増加している。(図1参照)
 そのような一方で、多数の観光客の訪問、鎌倉独自の環境により慢性的に道路渋滞及び電車、バスなどの交通機関のキャパシティオーバー等が発生しており、観光客は勿論、私自身も含めた地元住民にも混乱を招いている。
 例とすれば江ノ島電鉄の膨大な待ち時間、市の繁華街近くの道路での交通事故の多数発生などが挙げられる。


章立て

  1. 研究動機
  2. 「問題」なのか
  3. 鎌倉市の現状と取り組み
  4. 研究方針
  5. 参考文献

1.研究動機

 私がこの研究を行おうと思った理由は、同じ鎌倉市居住である祖母が昨年体調を崩し救急車を呼ぶという事があった際に交通渋滞により救急車の到着が遅れ、困ったという経験や、ゴールデンウィークや年末年始、夏休みといったいわゆる観光のトップシーズンになると乗りたい時間の電車に乗れないどころかホームにも入れないといった経験をしたことなどの、実際に生活をしていて感じた不便な面の改善を図りたいというものだ。
 また、上記したような外国人観光客の増加を旅行などによって実感することが多くなり、東京オリンピックのセーリング競技開催地が隣の市、藤沢市の海岸付近という非常に近い場所で行われる影響でのさらなる観光客数の増加があるのではないかという考えができたことや、ビッグゲームを控え、インフレ脱却などを目的とする観光客増加を狙っている日本全体のタイムリーな社会問題だと思ったからという動機もある。
 私は研究を通じて地元住民、観光客どちらも功利を得られる事案を提言したい。

2.「問題」なのか

2-1 鎌倉市民の視点から

  まず、そもそもとして鎌倉市民自体がこの問題に対して不満に感じているのかという点に関しては、図2の調査結果や鎌倉市が毎年交通計画検討委員会、またその下の組織である鎌倉市交通計画検討委員会・専門部会を開いているという点で、市民から交通改善を望んでいるという要望があるのが確認出来る。また、市内の移動や、市の繁華街付近の施設でもあり、市随一の大きな交通機関であるJR鎌倉駅から少し離れている場所に住んでいる市民が利用必須である江ノ電の乗車率も休日を中心に乗車率200%を超えている現状もある。(公益社団法人鎌倉市観光協会の鎌倉市観光地マスタープラン{pdf}参照)



図2 公益社団法人鎌倉市観光協会の鎌倉市観光地マスタープラン(pdf)を基に筆者作成

2-2 観光客の視点から

   東京から1時間半ほどの時間で来ることが可能な鎌倉では日帰りで訪れる観光客が非常に多い。(図3参照)
 宿泊をしないため、観光をする時間が少し他の観光地と比べて短いという特徴がある。つまり、1日である程度満足出来るコンパクトな観光が出来ることが観光客にとって重要である。その点で、交通に関する所要時間を短くする事は改善が欲せられることである。
 また、整備がなされていない道路などが古い土地柄多いので渋滞の発生などは狭い道での移動や道路付近にある観光スポットまでの移動などに危険が伴う。



図3 鎌倉市観光基本計画(pdf)を基に筆者作成


3.鎌倉市の現状と取り組み

 鎌倉市の「観光渋滞」は主に休日に集中していて、それが顕著である。また、夏休み、年末年始などは平日だとしても普段の休日に近い混雑が発生する。バスの所要時間は平日と休日で最大15分間の差が生じることがある。(図3参照 )



図4 バス所要時間(赤線が休日、青線が平日)出典・・・平成30年 国土交通省横浜国道事務所調査結果

そして、鎌倉市の交通を考える上で大変重要になるのが「古都」であるが故の環境保全基準、狭い道路、土地利用できるスペースの少なさである。歩行者路が伴っていない道路、車あるいは大きなバス等が通れない道路などが市内の至る所に存在している。これは、駐車場の設営、バスの交通などに多大なる影響を与えている。この様々な「制約」は大きな「観光渋滞」の要因と十分に言えるだろう、しかし、この街並みは壊してはならない。地元住民や行政は景色が変わる事にセンシティブであり、望むところではなく、街の価値を下げてしまう。
 この、環境保全をしながらの政策実施は難易度を上げると共に、市の交通計画検討委員会等の団体が必ず前提としてあげている事である。
 そして、鎌倉市はこの「観光渋滞」については上記したような交通計画検討委員会を毎年開き、様々な施策を検討、そして実施を施している。中心的な例をあげると、近年では鎌倉ロードプライシング(仮称)、歩行者尊重道路が挙げられる。

3-1 鎌倉ロードプライシング(仮称)

まず、ロードプライシングというのは都市域の道路混雑や大気環境の改善などを図るため、決められた区域に流入してくる車や通過する車に料金や税を課すことである。シンガポールやロンドンなどで緩和成功をした事例がある。
上記したように、鎌倉市には道路整備、駐車上整備に制約がある。そのため、直接的に環境に影響を与え無いロードプライシングを進めている。また、鎌倉市は国土交通省により日本有数の観光地である京都市と共にICT、AIを駆使したロードプライシングの実証実験を行う場所に選定された。この方法は機械の設置だけで環境面は整うので、鎌倉市にはうってつけと言える。



図5 ICT、AIを駆使したロードプライシングの課金方法イメージ 出典 公益社団法人鎌倉市観光協会の鎌倉市観光地マスタープラン(pdf)

3-1.2 問題点

しかし、筆者自身を含めロードプライシングを認知している市民は少ない。また、問題点となるのは実際に課金をすることになる市外からの観光客が実施することについての認知をしていないことである。(図6参照)このままでは、観光客側も前もった準備をすることが出来ず、実際に導入をするに当たった場合の理解度も低くなる可能性が高くなり、混乱を招く。
 さらに、この制度を導入するに当たっては地元住民の理解を得ることも当然だが重要であり、地元住民の親戚や友人などが訪れる度に課金される状況は好ましくない。このような点から、地元住民と観光客の2つのカテゴリーに分けた際の課金を行う、免除の具体的な線引きの基準の設定、仮設が今後実験、実施に当たって問題になる。



図6 ロードプライシングの認知度について 鎌倉市交通検討委員会実施 平成28年交通実態アンケート調査結果より筆者作成

3-2 歩行者尊重道路

 この計画は、交通事故発生件数、自動車走行速度、ピーク時の歩行者・自転車・交通量、ピーク時自動車交通量、4つの評価基準を基に鎌倉市内に多い歩道が整備されていない生活道路の安全確保、自動車の交通規制を目指している物である。平成30年には8路線が対象になっており、メインは寺社が多く並ぶ小町大路という通りである。ここは、観光スポットがいくつかあるものの、狭い道であり、市内中心地方面へとも繋がる通りであるため交通量が多く、集中して観光、運転が出来ない。
 そのような問題のため歩行者尊重道路の計画の中ではこの小町大路のみ平成30年からワークショップが行われ、生活道路の善し悪し、意見交換などが行われている。

3-2.2 問題点

 根本的な問題として、歩行者尊重道路の現在の段階だと「尊重」をする道路を作っていくのは良いものの、具体的な対策が出ていない。例とすれば、歩道のような物、もしくは歩道そのものを整備するのか、道路幅を単純に広げるのか、ロードプライシングを導入して交通量を制限するのか等、今後歩行者尊重道路を設定してからの方針の進行が待たれるところである。
 また、電柱の存在が車の速度、進入の制限になっていると言った、ワークショップの中での意見が大きく取り上げられたりしていて、景観保全とは合っていない方針が出ていることも不安材料である。

4.今後の研究方針

 今後の研究方針としては、もっと交通量や自動車の流れが分るような資料を入手することや、先行事例を見つけること、鎌倉市の海に接している特性を活かして海上交通の検討などが挙げられる。
 先行事例に関してはロードプライシングの所で先行事例として出てきた、シンガポールが海にも隣接していると言うことで参考にならないかさらに調べていく。このロードプライシングはまだ日本では実施されたことがないので、これに絡めた新鮮な研究をしていきたい。
 また、車での訪問を今まで通り制限し無い上で政策提言をしていくのか、または、そもそもの交通量を制限していくのかなどの方針決定も検討をしていく。

5.参考文献


Last Update:2020/5/29
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