極点社会

−日本の地方創生の未来−

上沼ゼミU 社学3年 二宮穂乃佳

出典:FNN PRIME

はじめに−研究動機−

東京で一人暮らしをするようになってから、東京の人口の多さに疑問を抱くようになった。自分の地元の茨城では県内で一番栄えている水戸市でさえもこれほど人は溢れていない。また、私は部活動で他の都道府県を訪れることが多いが、そこでもやはり東京の人口の多さを思い知らされる。多くの人が一部に集中することは様々な問題を引き起こす原因となる。なぜ人は東京をはじめ都市部に一極集中してしまうのか。この現状に対する解決方法はあるのか。これらの研究をすることは今後の社会をより良いものにするために必要なことであると考える。したがって、極点社会の問題点を明らかにし、その原因を探った上で解決策の提案をしていきたい。


章立て

  1. 極点社会の問題
  2. 極点社会が引き起こる原因
  3. 日本の地方創生
  4. 地方でのまちづくり・まちおこしの取り組み
  5. 今後の研究方針
  6. 参考文献

1.極点社会の問題

1-1.極点社会とは

極点社会とは、地方から都市部への人口の流出が進み大都市圏に人々が凝集して生活している社会を表す。また、大都市での結婚や出産、子育ては地方に比べ困難であるため、極点社会は出生率を低下させる。日本では少子高齢化が進む中で、特定の大都市に人口が集中してしまうこの「極点社会」の到来が危惧されている。以前は少子高齢化ばかりが叫ばれてきた日本だが、今ではその高齢者すら減少しはじめているからだ。では極点社会はどのような問題を引き起こすのか。

1-2.地方への影響

まず、高齢者の年金を主とする「老人経済」で成り立ってきた地方は「限界集落」を超え「消滅集落」となってしまう問題がある。限界集落とは、過疎化などにより人口の50%以上が65歳以上の高齢者となり、社会的共同生活や集落の維持が困難になりつつある集落を指す。また消滅集落とは、かつて住民が存在していたが住民の転居や死亡などで住民の人口が0になった集落を指す。国土交通省の2015年度過疎地域現況調査によると、2010年度からの5年間で174ヶ所が消滅した。消滅集落は東北や四国、九州に多く、そのうち27集落が東日本大震災の津波被災地だ。また、高齢者の減少は別の問題を引き起こす。それは地方経済が縮小されることによって雇用の場を失った若年女性が首都圏に流入して行くことだ。女性がいなければ子供は生まれず、人口が増えることもない。限界集落では高齢者が減少する上に若年女性も流出してしまい子供も増えず地方は存亡の危機に陥っている。

1-3.消滅可能性都市を生む

消滅可能性都市とは、日本創成会議が2014年5月に打ち出した「少子化や人口移動などが原因で将来消滅する可能性がある自治体」のことである。具体的には、20〜39歳の女性の数が2010年から40年にかけて5割以下に減るなどの基準で896の自治体が消滅可能性都市に選ばれている。創成会議の推計によると、青森、岩手、秋田、山形、島根の5県では8割以上の市町村に消滅可能性があるとされた。

1-4.都市部への影響

影響を受けるのは地方だけではない。多くの人が流入してくる大都市でも深刻な問題が生まれる。地方が存亡の危機に陥る一方で東京では若年層が増加している。しかし東京の出生率は全国でも下位。なぜなら、若年層が東京で増加したところで東京は子育て環境が最悪だからだ。地価が高いため子供はたくさん育てられないし、待機児童問題から分かるように保育所も十分ではない。

1-5.新型コロナウイルス感染拡大の観点から

2020年5月現在、国内で16,253人の感染が確認されている新型コロナウイルス。その感染者数のうち約3分の1に当たる5,053人が東京で感染が確認された人数だ。この爆発的な感染拡大を引き起こした原因の1つは、東京の人口の多さ、極点社会だと考えられる。多くの人が密集する東京では、いくら全員が気をつけようと感染拡大を防ぐことは難しい。感染の原因になり得る外出を一切止めれば防ぐことはできるが、生活のためにもそうすることはできない。今回の新型コロナウイルスの浮上によって、極点社会の新たな問題が浮き彫りになった。

1-6.自然災害のリスクの観点から

東京の人口はおよそ3,400万人と世界最大規模である。そして、地震・洪水・高潮など自然災害のリスクは世界最大の指標であり、アジアにある最高リスク大都市圏を大きく上回る。多くの人やモノがこの世界最大に危険な東京に集まっていることは大きな被害につながる。



2.極点社会が引き起こる原因

極点社会は都市部に人口が流入することから生まれるが、その一因は都市部の便利さにあると考えられる。首都圏の市区町村の人口を比較すると、交通の便が良い地域や新しく広大な住宅団地が開発された場所、新たな産業立地・再編があった場所では人口が増加傾向にある。結婚し子育てをしようと考える若い人々が住宅を持つ際に、都心に通勤できるかつ安価な住宅がある場所を求める。その条件にあった場所では地方からの流入が増え人口が増える。また、あらゆる産業が東京に本社を置いていること、主要な大学や金融機関が東京に集中していることも原因である。

都市部が便利であることとは対照的に、地方では生活しにくい部分が増えていることも極点社会を引き起こす一因といえる。都市部へのアクセスが発達したことによって、多くの人が地方より都市部を気軽に利用するようになった。例えば、昭和の時代では地方に多くの高級デパートが存在したが、交通が発達し東京への日帰りが可能になると、地方の富裕層は東京で買い物をするようになった。したがって地方のデパートはほとんど消滅した。


3.日本の地方創生

3-1.極点社会の発達を抑制するためには

東京への一極集中を防ぐためには、日本全国の各地域に東京と同じ価値あるいは東京にはない魅力を見出す必要がある。東京にない唯一の価値を生み出すという点では、新しいまちづくりやまちおこしが有効であると考えられる。また、まちづくりやまちおこしを進めることによって、東京に人口が集まる原因である「便利さ」を地方でも感じられるようになる。その結果、地方でも東京と同様の価値を形成することができる。さらに、地方移住の希望先を選んだ理由として約3分の1の人が「旅行などでよく行き、気に入った場所だから」と回答しているという結果がある。つまり、まちおこしを通じて地方に訪れる人口を増やすことは、地方に移住する人口の増加につながる。

3-2.地方創生の取り組み

内閣府地方創生事務局では、2014年から地方創生の取り組みが進められている。地方創生は少子高齢化に歯止めをかけ、地域の人口減少と地域経済の縮小を克服し、将来にわたって成長力を確保することを目指している。そのためには「まち・ひと・しごと」を一体的に推進することに関する施策を総合的かつ計画的に実施することが求められる。具体的には、国民一人一人が夢や希望を持ち、潤いのある豊かな生活を安心して営める地域社会の形成、地域社会を担う個性豊かで多様な人材の確保、地域における魅力ある多様な就業の機会の創出である。そのためには情報支援、人材支援、財政支援が不可欠とされている。具体的には、総合的な情報を集約・発信する拠点を全国に展開、地域企業の経営課題の解決に必要な人材マッチング支援を抜本的に拡充する地域人材戦略パッケージの推進、民間資金の地方還流・地方への企業の本社機能移転の強化だ。例えば、地方拠点強化税制という制度がある。これは東京一極集中を是正する観点から、企業の管理部門や研究所などの本社機能を東京23区から地方へ移転する場合や地方において拡充する場合に、設備投資減税や雇用促進税制などにより支援するものである。他にも、Society5.0の実現に向けた技術の活用、地方創生の担い手組織との協働、地域の未来を支える人材育成のための高校改革、個々人の希望を叶える少子化対策や誰もが活躍できる地域社会の実現、スポーツ・健康まちづくりの推進、地域経営の視点で取り組むまちづくりなどの取り組みが行われている。

また、SDGsを原動力とした地方創生、強靭かつ環境に優しい魅力的なまちづくりも推進されている。地方が将来にわたって成長力を確保するには、人々が安心して暮らせるような持続可能なまちづくりと地域活性化が重要だ。特に急速な人口減少が進む地域では、暮らしの基盤の維持・再生を図る必要がある。また地方創生を深化させていくためには中長期を見通した持続可能なまちづくりに取り組むことが重要だ。その取り組みとしては、地方公共団体によるSDGsの達成に向けた優れた取り組みを提案した60都市を「SDGs未来都市」として選定し、支援するとともに成功事例の普及展開等を行い地方創生の深化につなげていく。「SDGs未来都市」とは、SDGsの理念に沿った基本的・総合的取り組みを推進しようとする都市・地域の中から特に経済・社会・環境・の三側面における新しい価値創出を通して持続可能な開発を実現するポテンシャルが高い都市・地域として選定されているものだ。このSDGs未来都市が率先して積極的にPRすることで民間企業等のステークホルダーが都市や取り組みに関心を持ち連携が生まれ、地域の活性化・都市の魅力の向上につながることが期待されている。また内閣府では、より一層の地方創生に向けて広範なステークホルダーとのパートナーシップを深める官民連携の場として、「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」を設置した。このプラットフォームはSDGsを共通言語として課題解決に取り組む官民の連携を支援することを目的として設立された。主な役割は、会員からの要望に基づく、ノウハウを持つ会員の紹介や取り組みの共有をするマッチング支援、会員提案による分科会設置、講義の深化とプロジェクト化、展示会・フォーラムへの参加、会員が開催するイベント等への後援名義の使用承認だ。


4.地方でのまちづくり・まちおこしの取り組み

地方ではその地域の特性を活かしたまちづくりやまちおこしが日本全国で盛んに行われている。例えば、空き店舗・古民家などを活用した起業・移住促進によるものがある。岩手県遠野市では、東日本大震災をきっかけに市と市外企業が連携して、廃校を活用した次世代のまちづくり人材の育成拠点を設置した。この中から立ち上がったまちづくり会社が空き家・空き店舗を活用し、外部人材の移住・起業をサポートする事業を展開することで、国内有数のホップ生産地である強みを活かした起業・創業などの拡大が期待されている。このような空き店舗や古民家を活用した事例は全国に30事例以上ある。また、コミュニティの賑わいづくりによるまちづくりもある。埼玉県秩父市では、商店街が主体となったナイトバザールや交流拠点の整備等によって賑わいを再生させた。秩父駅前に位置するみやのかわの商店街では、「できるものは何でも挑戦する」という姿勢で、約30年にわたりナイトバザールを継続開催するなど、リピーター・お得意先づくりに取り組むことで空き店舗ゼロを達成した。みやのかわ商店街復興組合は消費者の生活行動が夜型に移行していることに着目し、昭和62年からナイトバザールを実施している。また秩父市では手助けが必要な高齢者の日常生活の支援や地域住民の交流拠点の整備といった、高齢化社会のニーズにいち早く対応することで、地域貢献を図るとともに商店街の賑わい再生につなげている。出張商店街「楽楽屋」は、外出困難な高齢者を支援するため高齢者施設や山間地域に商店街ごと出張して商品を陳列・販売している。


5.今後の研究方針

今後は先行事例を調べながら、問題や原因についてもさらに深く調べていきたい。解決案についても先行事例をもとに考えていきたい。また、極点社会に関連する消滅可能性都市やまちづくりについてもさらに深く調べたい。その上で研究対象を特定の地域や自治体に定め、そこでの現状や課題及び解決案を考察していきたい。


6.参考文献


Last Update:2020/05/27
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