日本のギグワーカーに「働きやすい労働環境」を提供するためには
早稲田大学 社会科学部2年
上沼ゼミT
飯田祐月

「Gig Economyに関する要素」
出所:「growing -developing your future-」より
章立て
- 1.はじめにー研究の動機とその内容ー
- 2.ギグワーカーの現状
- 3.ギグワーカーに関する課題
- 4.政策提言の方向性
- 参考文献
1. はじめにー研究の動機とその内容ー
本論文筆者は、日本のギグワーカーに「働きやすい労働環境」を提供するには、というテーマのもと研究を進めていく。このテーマを選んだ理由は、大きく分けて2つある。
1つは、最近新聞などでギグワーカーに関する問題を目にする頻度が増え、その問題を早急に解決しなければならないという危機感を覚えたためである。
2つ目は、本論文筆者が現在アルバイトをするホステルにおいて、UberEatsやWoltなどギグワークに従事するゲストの方が多く、紙面上だけではない、自分にとって身近な問題であると感じたためである。
以上の動機を踏まえ、ギグワーカーに「働きやすい労働環境」を提供するための最適解を研究を通して見出したい。
ギグ(=Gig)とは、もともと「音楽業界などで活躍するアーティストなどが行うその場限りのライブ」を意味する言葉であり、そこから、インターネット経由で企業や個人から請け負う雇用関係のない単発の仕事を指す"ギグワーク"という言葉が誕生した。ギグワーカーとは、そのギグワークに従事する人々のことを指す。
日本では近年、「UberEats」や「Wolt」のデリバリーを行う人々をはじめ、ギグワーカーの増加が顕著である。国外に目を向けると、アメリカやEU諸国では、日本よりも遥かに多くの人々がギグワークに従事している。しかし、日本よりもギグワークが浸透するそれらの国々においては、ギグワーカーめぐる問題が社会問題化しているのだ。
本研究においては、「働きやすい環境」を「健康で文化的な最低限度の生活ができ、安心して仕事に望むことができる環境」と定義し、さらなるギグワーカーの増加が予想される日本社会に対して、ギグワーカーにまつわる社会問題の拡大を防ぐための政策提言を行う。
2. ギグワーカーの現状
「ギグワーク」は、場所や時間に囚われないフレキシブルな働き方がその魅力である。そのフレキシブルさに惹かれ、現時点では正確な統計はないものの、約700万人もの人がギグワークに従事しているといわれている。そして、その数は今後も右肩上りで上昇していくと考えられている。
国外に目を向けると、アメリカやEUにおいては、日本よりもギグエコノミーの規模は大きく、アメリカでは約5900万人、EUにおいては約2800万人もの人々がギグワークに従事している。

「世界各国におけるギグワーカーが占める割合(2018)」
出所:BCG, Future of Work
ギグワーク拡大の一方で、それらの国々において、ギグワークにまつわる問題が社会問題化した。
例えば、ライドシェアアプリ「ウーバー」と「リフト」のドライバーを掛け持ちしているアメリカに住む男性は、始めたての2016年頃は、週に5000ドルほどの稼ぎがあったのにも関わらず、その1年後には運転手の数が増加し、乗客獲得のための競争が激化した。そのため、稼ぎは、毎日12時間ほど働いても週に800ドルほどにしかならず、それはカリフォルニア州の最低賃金を下回る金額だ。
このような事例が増加したために、最低賃金や有給休暇を保障することなど、雇用されて働く従業員と同等の扱いをすべきだという声が高まった。その結果、ギグワーカーを保護するための政策実施が現在進行形で進められている。
ギグワーカーに関する問題が社会問題化しているのは、日本も同様である。ギグワーカーは個人事業主であり、雇用契約ではない。従って、企業が定める給料が最低賃金を下回ったとしても、また、働いている最中に事故に遭ったとしても「自己責任」となってしまう。
このような問題が顕在化しているのにも関わらず、日本においては、労働時間の規制や有給休暇の権利といった、働く環境に関する事項、ギグワーカーの労災保険料を企業に義務付けることなどのドラブルを防ぐための仕組みに関する事項に関しては、いまだ方針が定まっていない。アメリカやEU諸国に比べ、日本は遅れをとっているということが現状である。
3. ギグワーカーに関する現在の課題とこの先起こりうる問題
2.で述べたように、アメリカやEU諸国では、ギグワーカーを保護するための政策の整備が急ピッチで進められている。
本章では、現在日本が抱えているギグワーカーにまつわる問題を整理することに加えて、それらの政策が必要となった背後にある問題について分析することで、今後、それらの問題が日本で起こりうるかということについても検討する。
4. 政策提言の方向性
本章では、前章で整理した現在日本が抱えるギグワークに関する問題と、前章における検討の結果、起こる可能性が高いと判断した問題に関して、アメリカおよびEU諸国が整備しているギグワーカーを保護するための先進的な政策を参考にしつつ、問題解決のために最適な政策提言を、論理的な根拠のもと提示する。
5. 参考文献
- growing -developing your future-「Gig Worker」 https://growinghr.com.uy/en/our-blog/gig-worker/(最終閲覧日:2022/02/15)
- 牛尾梓「ウーバー運転手、評価は「臭い」 激務でシャワーすら」朝日新聞デジタル2019/11/21、https:/h/www.asahi.com/articles/ASMC65TG5MC6ULFA031.html?iref=pc_ss_date_articl,(最終閲覧日 2022/01/30)
- Miros?aw Ciesielski「“The gig economy is becoming increasingly global ”」 obserwatorfinansowy.pl, 2019/05/01, https://www.obserwatorfinansowy.pl/in-english/new-trends/the-gig-economy-is-becoming-increasingly-global/(最終閲覧日:2022/02/17)
- 水野裕司「ギグワーカー保護、働き方問わない安全網づくりを」 日経速報ニュースアーカイブ2022/01/06
- 笠井哲也「「多様な人が安心できる世に」福島で感じた経済格差」朝日新聞デジタル,2021/10/30, https://digital.asahi.com/articles/ASPBY6Q84PBQUGTB005.html?iref=pc_ss_date_article (最終閲覧日:2022/02/17)
- 太田 聰一 (2021)「経済を見る眼 ギグワーカーをめぐる法整備が急務だ」『週刊東洋経済』〇年〇月〇日号、p.9.
- 馬本 寛子・外薗 祐理子「ウーバー運転手、評価は「臭い」 激務でシャワーすら」「急増ギグワーカー 理想と現実に深い溝」、 日経Xtech、2021/11/22、https://wisdom.nec.com/ja/article/2019121603/index.html(最終閲覧日:2022/01/30)
- 風間直樹「若者がハマる「ギグワーク」脱法的仕組みの問題点」東洋経済ONLINE, 2021/11/30, https://toyokeizai.net/articles/-/470783?page=2(最終閲覧日:2022/01/30)
- 「ギグエコノミーとは?新しいワークスタイルから見える課題や日本への影響」 business leaders square wisdom、2019/12/12
https://wisdom.nec.com/ja/article/2019121603/index.html (最終閲覧日:2022/01/30)
Last Update: 2022/02/17
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